臣下に配った漢籍(朝鮮内賜本)

江戸時代以前は学問といえば漢文の書籍が中心でした。
その事情は朝鮮半島でも同じで、日本と同様に多くの漢文で書かれた書籍(朝鮮本)が刊行されました。

朝鮮本の特徴としては、活字を使った印刷が多いということと、公的機関や学者個人が刊行したものがほとんどで、日本のような商業出版物はほとんど見られないということが挙げられます。

特に政府が刊行した本については、一部は家臣に配られていました。そのような本には、最初の冊の見返しに「(国王から)この書物をいつ・誰それに下賜する」という文章が墨書されており、「内賜本」と呼ばれています。
当館では『國朝寶鑑(こくちょうほうかん)』と『璿源系譜紀略(せんげんけいふきりゃく)』の2点の「内賜本」を貴重書として所蔵しています。

國朝寶鑑』は朝鮮王朝 (李朝) の歴代国王ごとに模範となる事実を収録した編年体の歴史書です。最初は太祖から文宗まででしたが、その後順次追加されていき、最終的には全90巻になりました。歴彩館所蔵の資料はこのうち翼宗(よくそう)までの事績を収めた82巻の資料になります。

見返しの記述によると、この本は道光29(1849)年に中枢府の官吏だった洪敬謨(こうけいぼ)という人に贈られています。そして、最後に「命除謝恩」とお礼は不要であると書かれています。洪敬謨は歴史や地理についての考証を行った学者です。

もう一つの「内賜本」、『璿源系譜紀略』は朝鮮王朝 (李朝)の王室の系図で、光緒元 (1875) 年に「金始淵」という政治家に贈られています。

一般的に朝鮮本は刊年の記載がないのですが、「内賜本」については、その文章が書かれた年に出版されたということが分かるので、書誌を作成する際にはとても重要な情報となります。